ドイツ銀行のインベストメントバンク部門の一部でESGアドバイザリーチームが、2021年に投資家の行動に影響を与える5つのキャピタルマーケッツESGトレンドについて解説しています。
1. どういったESG投資戦略が優勢になるか?規制とコロナウィルス感染拡大の影響により投資家のESGリスクへの理解が加速
投資家は、コロナウィルス感染拡大による非財務的リスクが財務に重大な影響を及ぼす事を明確に捉えています。そのため、ESG要因、特に気候変動に起因する重要な財務リスクを管理することへの関心が高まっています。2020年は、経済や社会に影響を与える、このような非財務的な脅威は、記録的速さでワクチン開発に資金を提供するなど、解決策に資金を集中させることで管理できることを教えてくれました。
このように、パリ協定の目的に沿うポートフォリオと資本をそろえることにコミットする投資家が増えることが期待されており、当行は2021年に向けて、以下の3つのESG投資戦略にスポットライトを当てています。
2. ネット・カーボン・ニュートラルな世界への競争における信頼性:投資家は何を求めているのか?投資家は、信頼性の高い移行戦略と公約を達成できる企業に資本を投入することを求めています。
世界が今世紀半ばまでにネットカーボンニュートラルの達成を目指す中、企業はパリ協定に沿った脱炭素化への道にビジネス・モデルを合わせることを迫られています。これにより投資家は、企業の移行戦略において (a)科学的根拠に基づいており、外部から検証されたものであること、(b)実行可能であり、オフセットではなく企業の最大の排出源の削減に依存していること、(c)公約に対する進捗状況と実行実績を示していることを期待します。
国際資本市場協会(ICMA)のトランジション・ボンド原則、信頼できる移行への資金調達に関する気候債券イニシアティブ(Climate Bond Initiatives CBI)の白書、石油・ガス大手が策定したエネルギー移行原則は、それぞれが投資家の期待に沿ったものです。これにより、金融市場がネットカーボンニュートラルな世界への移行を確実にサポートする方法が市場参加者にとって非常に明確なものとなりました。
3. 世界的な規制の高まり規制当局が世界的に金融分野におけるESGの急激な成長に追いつこうと動き出す中、企業は断片的な開示義務や投資家によるESGデータの利用方法の違いに直面することになるでしょう。
2020年には、欧州のコミットメントに加えて、日本、中国、韓国、香港、英国などの国々が、すべての国でカーボンニュートラルの目標を設定しました。これらの目標を達成するために、政府は目標に沿った資本の投入を民間セクターに求めています。また、EU、日本、カナダなどは、金融セクターにおける ESG における規制とインセンティブを支援するために、国家単位でタスクフォースを設置しています。
Brexitによって、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという同じ目標を掲げているにもかかわらず、英国はグリーン政策アジェンダの実施により、異なるルールが生まれることが予想されます。
一方、米国はこのリストにも入ってもいないのですが、ジョー・バイデン氏の次期大統領就任は米国のESG政策アジェンダに影響を与えると予想されており、特にSECや連邦準備制度理事会などの機関が、気候ストレステストと開示に関するルールの確立に努めるものと思われます。こうして、キャピタル・アロケーション(資本の配分)におけるESGデータの重要性が高まると予想され、各国が独自の重要なESG開示ルールを採用していることから、企業は開示規制の分断化に直面する可能性があります。また、時間はかかるものの、プルデンシャル規制におけるESGの統合が始まったことで、実体経済への資本配分にインパクトを与えることが期待されています。
4. 一貫性の追求:単一のESG報告基準はできるのか?資本配分を促進するための単一の基準を作ることは短期的には困難であり、利害関係者の賛同とダブルマテリアリティ・アプローチが必要となる ※欧州委員会のガイドラインでは、投資家視点のマテリアリティと、ステークホルダー視点のマテリアリティを統合した「ダブルマテリアリティ」という考え方が示されています。
ESG統合とテーマ別投資の両方の成長において、ESGリスクが業績に与える影響を測定すること、また、ESG取り組みが人や地球に与える影響を測定するという二重のアプローチを持つ報告基準が必要とされています。
今日の報告基準は信じられないほど断片的で一貫性がありません。主な民間の基準設定機関には、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、国際統合報告委員会(IRC)などがあります。SASBとIIRCの合併や他の機関間の共同作業は、市場におけるコンセンサスを簡素化し、発展させようとする努力の中で有効な展開といえます。
どのような報告基準が普及するにしても、投資家と既存の2つの大手機関であるSASBとGRIの支持が必要となるでしょう。グローバルな持続可能性基準に対する需要と、その発展に貢献できるかどうかを評価しているIFRSは、こうしたギャップを埋めることができるかもしれないが、一貫性をめぐる賛同を得ることはまだしばらく先のことでしょう。
5. 資金調達市場ESGは、社会・持続可能性関連債券の成長に牽引され、グローバルな投資適格債市場への参入をさらに進め、ハイ・イールド市場での分散化を図っていきます。
ESG は、債券市場、特に投資適格債の中でメガトレンドとなっています。その関連性は、投資家がESGリスクが高いと認識している企業への定期的な資本フローに影響を与え始めているほどに成長しています。特に注目すべきは、グリーン、ソーシャル、サステイナブルな債券を含む資金調達市場であり、過去5年間で発行量が900%以上増加している(出典:ブルームバーグ)。
この前例のない成長は今後も続くと予想され、これら3つの要因によって牽引されることになるでしょう。
① ハイ・イールド債を中心としたESGファイナンスの新市場への分散化。② サステナビリティ・リンク債の成長、特にECBがこれらを担保に受け入れていることを考慮した場合。③ コロナウィルス感染拡大の影響により、2020年に75倍に増加したソーシャル・ボンドへの需要の増加。
また、当行は投資家にとってESG格付けの関連性が高まり、投資家が発行体のグリーンボンドに対する評価を企業のサステナビリティ戦略にしっかりと結びつけるようになることも期待しています。
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ドイツ銀行のインベストメントバンク部門の一部でESGアドバイザリーチームが、2021年に投資家の行動に影響を与える5つのキャピタルマーケッツESGトレンドについて解説しています。
1. どういったESG投資戦略が優勢になるか?
規制とコロナウィルス感染拡大の影響により投資家のESGリスクへの理解が加速
投資家は、コロナウィルス感染拡大による非財務的リスクが財務に重大な影響を及ぼす事を明確に捉えています。そのため、ESG要因、特に気候変動に起因する重要な財務リスクを管理することへの関心が高まっています。2020年は、経済や社会に影響を与える、このような非財務的な脅威は、記録的速さでワクチン開発に資金を提供するなど、解決策に資金を集中させることで管理できることを教えてくれました。
このように、パリ協定の目的に沿うポートフォリオと資本をそろえることにコミットする投資家が増えることが期待されており、当行は2021年に向けて、以下の3つのESG投資戦略にスポットライトを当てています。
2. ネット・カーボン・ニュートラルな世界への競争における信頼性:投資家は何を求めているのか?
投資家は、信頼性の高い移行戦略と公約を達成できる企業に資本を投入することを求めています。
世界が今世紀半ばまでにネットカーボンニュートラルの達成を目指す中、企業はパリ協定に沿った脱炭素化への道にビジネス・モデルを合わせることを迫られています。これにより投資家は、企業の移行戦略において (a)科学的根拠に基づいており、外部から検証されたものであること、(b)実行可能であり、オフセットではなく企業の最大の排出源の削減に依存していること、(c)公約に対する進捗状況と実行実績を示していることを期待します。
国際資本市場協会(ICMA)のトランジション・ボンド原則、信頼できる移行への資金調達に関する気候債券イニシアティブ(Climate Bond Initiatives CBI)の白書、石油・ガス大手が策定したエネルギー移行原則は、それぞれが投資家の期待に沿ったものです。これにより、金融市場がネットカーボンニュートラルな世界への移行を確実にサポートする方法が市場参加者にとって非常に明確なものとなりました。
3. 世界的な規制の高まり
規制当局が世界的に金融分野におけるESGの急激な成長に追いつこうと動き出す中、企業は断片的な開示義務や投資家によるESGデータの利用方法の違いに直面することになるでしょう。
2020年には、欧州のコミットメントに加えて、日本、中国、韓国、香港、英国などの国々が、すべての国でカーボンニュートラルの目標を設定しました。これらの目標を達成するために、政府は目標に沿った資本の投入を民間セクターに求めています。また、EU、日本、カナダなどは、金融セクターにおける ESG における規制とインセンティブを支援するために、国家単位でタスクフォースを設置しています。
Brexitによって、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという同じ目標を掲げているにもかかわらず、英国はグリーン政策アジェンダの実施により、異なるルールが生まれることが予想されます。
一方、米国はこのリストにも入ってもいないのですが、ジョー・バイデン氏の次期大統領就任は米国のESG政策アジェンダに影響を与えると予想されており、特にSECや連邦準備制度理事会などの機関が、気候ストレステストと開示に関するルールの確立に努めるものと思われます。
こうして、キャピタル・アロケーション(資本の配分)におけるESGデータの重要性が高まると予想され、各国が独自の重要なESG開示ルールを採用していることから、企業は開示規制の分断化に直面する可能性があります。また、時間はかかるものの、プルデンシャル規制におけるESGの統合が始まったことで、実体経済への資本配分にインパクトを与えることが期待されています。
4. 一貫性の追求:単一のESG報告基準はできるのか?
資本配分を促進するための単一の基準を作ることは短期的には困難であり、利害関係者の賛同とダブルマテリアリティ・アプローチが必要となる ※欧州委員会のガイドラインでは、投資家視点のマテリアリティと、ステークホルダー視点のマテリアリティを統合した「ダブルマテリアリティ」という考え方が示されています。
ESG統合とテーマ別投資の両方の成長において、ESGリスクが業績に与える影響を測定すること、また、ESG取り組みが人や地球に与える影響を測定するという二重のアプローチを持つ報告基準が必要とされています。
今日の報告基準は信じられないほど断片的で一貫性がありません。主な民間の基準設定機関には、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、国際統合報告委員会(IRC)などがあります。SASBとIIRCの合併や他の機関間の共同作業は、市場におけるコンセンサスを簡素化し、発展させようとする努力の中で有効な展開といえます。
どのような報告基準が普及するにしても、投資家と既存の2つの大手機関であるSASBとGRIの支持が必要となるでしょう。グローバルな持続可能性基準に対する需要と、その発展に貢献できるかどうかを評価しているIFRSは、こうしたギャップを埋めることができるかもしれないが、一貫性をめぐる賛同を得ることはまだしばらく先のことでしょう。
5. 資金調達市場
ESGは、社会・持続可能性関連債券の成長に牽引され、グローバルな投資適格債市場への参入をさらに進め、ハイ・イールド市場での分散化を図っていきます。
ESG は、債券市場、特に投資適格債の中でメガトレンドとなっています。その関連性は、投資家がESGリスクが高いと認識している企業への定期的な資本フローに影響を与え始めているほどに成長しています。特に注目すべきは、グリーン、ソーシャル、サステイナブルな債券を含む資金調達市場であり、過去5年間で発行量が900%以上増加している(出典:ブルームバーグ)。
この前例のない成長は今後も続くと予想され、これら3つの要因によって牽引されることになるでしょう。
① ハイ・イールド債を中心としたESGファイナンスの新市場への分散化。
② サステナビリティ・リンク債の成長、特にECBがこれらを担保に受け入れていることを考慮した場合。
③ コロナウィルス感染拡大の影響により、2020年に75倍に増加したソーシャル・ボンドへの需要の増加。
また、当行は投資家にとってESG格付けの関連性が高まり、投資家が発行体のグリーンボンドに対する評価を企業のサステナビリティ戦略にしっかりと結びつけるようになることも期待しています。
内容は英語版が先行します。
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